スティーブ・ジョブズI・IIを読んだ

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ジョブズの伝記の上下巻共に読み終わった。

ほとんどが面白く、一気に最後まで読み通せた。

Mac発売辺りを中心に知っていることもあったが、特にジョブズの子供時代や、Apple追放以降は、知らない話も多かった。

NHKで大河ドラマをやっているのをたまに見るが、あれの自分の時代版を見ているような印象。

Apple追放までの頃は、自分も若く、ネットも発達しておらず、ジョブズのことは本で読んだぐらいだけど、トイストーリーの登場、iMac以降などは、ニュースやら、実際に自分もAppleの製品を買ったりして、リアルタイムに体験したことがほとんど。
その裏側で何が行われていたか、の少なくとも一部を知ることができて、自分も大河ドラマの世界中に住んでいる一住人だったような気もしてきた。

本として、十分な値段分のエンターテイメントを提供していると強く思ったが、一方で、知りたい、書いてあるはず、と思ったことが書かれていないとも思った。

一番、知りたかったのは、一度はAppleを放り出されるという失敗をしたジョブズが、Appleへの復帰後、なぜクリティカルな失敗もせず、それどころか、どんな他社も真似できていない素晴らしい製品・サービスを生み出し続けるようになったのか、というところ。

本を読む前に思っていたのは、追放期間の間に、ジョブズの考えを大きく変わるような転換があって、ジョブズそのものが、大きくバージョンアップしたのではないか。だとすれば、それが何で、どう変わったのか、をぜひ知りたいと。

しかし、この本を読む限り、追放前と復帰後のジョブズは本質的には変節しておらず、復帰後もやっぱり奇人だった、という印象は拭えない。

もちろん多少は変わったところもあるとは思うが、ジョブズ1.0が1.2になったぐらい。
とてもではないが、Appleのこのものすごい成功を説明するには不十分、と言わざるを得ない。

その理由はいくつか考えられるが、一つは、ジョブズ自身が隠した、という可能性。
この伝記で驚いたことのひとつに、ジョブズが自分の健康問題を本当に隠していた、嘘をついていた、ということがあるが、そのことを考えれば、伝記作者に全てを話すといいながら、違うことを言ったり、話さなかった、ということはあり得る。

もう一つは、ジョブズは話したが、伝記作者が隠した、あるいはAppleが隠すように依頼した、という可能性。
よく、コカコーラで一番大事なことは、本社の金庫に保管されて、数名のトップしか知らないとか、ケンタッキーフライドチキンのレシピを日本で知っている人はいない、とかいう話があるが、その類だったのかもしれない。

自分なりにこうかな、と思っているのは、Apple成功の本当のカギはジョブズには無かった、という可能性。
いやもちろん、ジョブズは重要なピースであったことは間違いないだろうが、思ったよりも成功に占める割合が高くなかったのではないか、というところか。

そう思う理由の一つは、まずジョブズが、復帰後もそれほど変わっておらず、相変わらず奇行を繰り返す人であった、というのはさっき書いた。

2つ目は、ジョブズの闘病が思っていたよりずっと苛烈だった、という点。
リアルタイムで見ていた頃は、元気が多少無いぐらいに見えていたが、それはお得意の印象操作であって、あれほど痛みや、食事と闘っていたとは。
ジョブズが仕事に集中できる時間も限られていたはずなのに、方やAppleは、その間もコンスタントにホームランを飛ばし続けてきた。
そんな中で、やはりジョブズが全てを考え、コントロールし、決定してきた、と考えるのはもはや夢物語としか言いようがない。

3つ目は、特に下巻に入ってだが、ジョブズが一度、即却下した案を側近達が時間をかけて説得した、というシーンが多かったように思う。つまり、ジョブズは一度間違った判断、というか意見を持ったが、最終的には優秀な部下のおかげで救われていた、ということになる。

もちろん、この本の中で繰り返し書かれているように、優秀な部下だけを集め、維持していたのは、ジョブズの努力の成果だろうし、むしろ、ジョブズに対して意見をする部下を重用していた、という記述も多い。
説得されてしまうものの、最終的には、ジョブズがイエスといわなければ実行されないわけで、そういう意味ではジョブズは重要なピースではある。

が、しかし、やはりものすごいアイデアを思いつき、モノにしたジョブズ以外のAppleのメンバーがいたのは事実で、やはりAppleはジョブズのワンマン会社ではなかった。

本の中で挙がっているのは、iPodをWindowsでも使えるようにすること、iPodミニの発売、モバイル機器のチップをARMにすること、iPhoneにサードパーティのアプリを載せること、アンテナ問題に対処すること、これら全部、ジョブズが否定し、側近たちがジョブズを説得し、実現した、ということになっている。

ジョブズ復帰後のAppleの成功の要因が、ジョブズだけにないとすれば、果たしてそれは誰なのか?
この本の中では決して記述は多くないが、現CEOのティム・クックが見え隠れする。

ジョブズは、クックに若干の物足りなさを感じつつも、かなりの部分を任せていたようだし、療養中にクックがあまりにうまく取り仕切ってしまうものだから、嫉妬を感じて復帰に頑張る、というぐらい。
クックの方は、そんなジョブズを手玉に取るように、ジョブズを使って社内に喝を入れたり、逆にジョブズに喝を入れたり、策士っぷりが垣間見える。

シラーも記述は多くないが、思っていたよりもAppleの行くべき姿を想像できている印象で、ジョブズに道を進言する人、という感じ。

アイブは、ジョブズに近いということもあって、記述も多いが、ナイーブそうでジョブズなしで大丈夫なのか、と思ってしまう。クックと仲が良いといいのだけど。

まとめると、クックがお膳立てし、シラーをはじめとした側近が叩きを作り、アイブが美をプロデュースし、ジョブズが選び、決める、という感じだろうか。


スティーブ・ジョブズ (アプリ版).

スティーブ・ジョブズ I(紙版)